ISの衝撃
デジタルカメラやレンズで、いわゆる開発発表やショーなどの参考展示から、詳細が公表される正式発表までに仕様変更が行われる場合がある。と言っても、ある程度製品化のメドがついた時点で公にするのが普通なので、そうそう大きな変更が加えられることはあまりない。
オリンパスの 300mm F4.0 IS PRO は、その「大きな変更」があった一例なのだが、このレンズ、開発発表時には手ブレ補正(IS)が無かった。発表当初の M.ZUIKO PRO 公式サイトでは正式発表前ということもあって詳細については不明ながら、ISが付いていないレンズ名と外観、そして何故かレンズ構成が公開されていた(わりと珍しいと思う)。
発表後しばらくして、オリンパスの特許にISが組み込まれた300mm/F4.0が存在することが明らかになる。それを受けて「実は手ブレ補正が採用されているのでは?」という憶測(期待)が一部であったのだが、レンズ構成が公開済みのものとは異なることから、研究段階での試案だろうとの指摘もあったりした。
そんなわけで、「公開済みのレンズ構成を大幅に変えるのは考えにくい」「オリンパスが交換レンズにISを採用した実績が無い(コンデジはある)」といった固定観念から、自分の中では、将来的にはともかく現時点でのIS採用はあり得ないと勝手に結論づけてしまっていたのだ。
だがしかし、正式発表の日。製品名には、それまでのオリンパス製レンズには見られなかった「IS」の文字が。いや、もう、まさに不意打ち。しばらく挙動不審になるくらいの衝撃(笑)。製品版のレンズ構成は前述の特許のものではなく、見た目にはISが無い状態で発表されたものに僅かな変更が加えられている程度であった。
後の開発者インタビューの内容では、やはり正式にIS採用が決まったのは開発発表後のようで、ギリギリまでISを組み込むための試行錯誤があったことが窺える。それにしても、発表した時点で大凡の開発は終わっていて(もっとも重要なレンズ構成が公開されていたわけだし)、あとは最終調整くらいだと思っていたら、まさかISを追加するとは予想外。ごめんなさい、オリンパスさん。私が浅はかでした。
動画の重量
デジカメにセンサーシフト方式のIS、いわゆるボディ内手ブレ補正が必要かどうかの一連のやりとりの中で、手ブレ補正を採用するなら動画を無くして(ISユニット搭載で増える分の)重量を抑える、という感じの要望があった。
おい、ちょっと待て。動画撮影って本体の重量にどう関係するんだ。動画を撮るための何か特別な、重量が嵩むような機構がデジカメにはあるとでも言うのか? ハードウェア的にはせいぜい、音声関係(内蔵マイク・スピーカー等)や動画ボタンを省けるくらいだろう。重量的には微々たるものだ。
主要処理はワンチップのISPでこなしているイマドキのデジカメで、動画機能をオミットしたところで処理系での軽量化はまずあり得ない。おそらく、現実的な処置としてはISPに組み込まれている動画処理(エンコーダー)を「使わない」というだけの話になる。モノは同じ、単に機能を制限するだけ。
Dfのように「あくまでもスチルカメラ」という演出から敢えて動画機能をはずす場合や、シグマのQuattro系のように処理的に大変という理由で搭載しないケース(技術的には可能だけどリソース不足だとか)はあるが、これらはボディの軽量化とはまったく別の話である。結果的に、それで大幅に軽量化できたということもない。
ともかく、機能を削れば軽くなる(小さくなる、安くなる)と安易に考えてしまいがちではあるのだが、まさか重量とのトレードオフに動画撮影機能を挙げるとは斜め上だった。
小ネタ
カメラ関連用語でよくある間違い。
回折 → 回析
折と析という似た字。解析という回折よりも比較的馴染みのある言葉の存在。それらが混然となった結果と思われる。
内蔵 → 内臓
内臓フラッシュとか、内臓EVFとか、バイオテクノロジーによって生みだされた次世代デバイスがあるのかもしれない。
ブラケット → ブランケット
オートブランケット撮影。野外撮影などで撮影者が風邪をひかないように自動で毛布をかけてくれる優しさ。
ファーム → フォーム
ポーズを決めて「フォームアップ!」と叫ぶとさらに強力な形態に変身することができるとかできないとか。
チルト(ティルト) → チルド
ひんやりチルドモニターは夏にぴったり。
キット → キッド
天才少年カメラマンが各社レンズをレビュー、そして撮影テクを紹介するEテレの新番組「レンズキッド」がスタート!
バッグ → バック
カメラバック。カメラの後ろ。
ロット → ロッド
初期に作られた竿には不具合が付きものなので、人柱になりたくない方は2ndロッド以降を狙いましょう。
アストロトレーサー → アストロレーサー
宇宙のレーサーってなんだかSFチック。アストロ・トレーサーと中黒があれば、多少は防げたかもしれず。
手ブレ補正 → 手ブレ
間違いと言うか、不用意な省略と言うか。手ブレ搭載カメラはどんな時でもブレブレの写真が撮れます。
STYLUS
いつの間にか、オリンパスのサイトからSTYLUS(コンデジのペットネーム)が消えていた。最後の生き残りとも言えるSH-3と共に。一応、現行ラインナップとしてはTG-4とTG-TrackerがSTYLUSを冠してはいるけど、TG-5はSTYLUS採用前に戻り「Tough」を看板として表に出すことになったようだ。
コンデジとしての「STYLUS」はXZ-2が出るちょっと前、2012年の夏モデルあたりから採用されたと記憶している。あの頃はオリンパスのコンデジも豊富にラインナップされていた。翌年にはSTYLUSのハイエンド機とも言える「STYLUS 1」がリリースされたけど(タモさんが使っていたなあ)、その後の急激なコンデジ衰退の流れから今やTGシリーズ1本になり、STYLUSの看板まで下ろされてしまった。なんか、ちょっと寂しい。
オリンパスに限らず、コンデジのモデル整理や廃止はデジカメ業界全体の潮流とも言うべきものではある。それでも、1型以上のセンサーを載せた高級機や高倍率ズーム機を維持、ラインナップするメーカーも多い中、オリンパスはTGシリーズを残してはいるものの、いっそお見事とも言える「撤退ぶり」を見せている。それだけ、ミラーレス(OM-D、PEN)に注力しているということなのだろうか。
それでも、長年オリンパスのデジカメを愛用している身としては、無理を承知で4/3型(以上)のセンサーを載せたコンデジを出して欲しいとワガママを言わずにはいられない。GRやX70なんかも使ってきたけど、やっぱり「こういうのがオリンパスからも出たらなあ」と思ってしまうのである。
EVF
曰く。
GM1は小さくてポケットに入るのが良い。
(後継機があるとしたら)EVFが欲しい。
しかし、GM5のような中途半端なモノは嫌。
そのために大きくなっても構わない。
なんだろう、この最初と最後の矛盾感。
EVFというのは魔法の覗き窓ではないので、それなりの見映えを要求すると、それなりの大きさになる。単に、表示パネルのサイズや画素数の問題だけでなく、接眼光学系の充実度(レンズ構成)で大きく変わってくるもの。コンパクトな箱形ボディに、サイズ感を損ねることなくギュっと押し込んだEVFに過度の期待はできない。いわゆるミラーレスカメラが一ジャンルを形成し、多種多様なEVF内蔵機がリリースされている今なら、「そんなの常識だろ」というツッコミを頂けるのではないかと思う。
しかし、数年前にはそこンところがよく解っていらっしゃらない方が散見されたのだ。オリンパスのE-M5が登場した当時、ボディ上部に鎮座しているEVFに、ペンタプリズムがあるわけでもないのに一眼っぽく見せるための飾りだ!というような批判があった。「あの三角には何が入ってるの?www」と嫌味のようなことも言われていた。いやまあ、確かにOMっぽく三角形に整えるための多少のデザイン的演出は存在するけど、中にはちゃんとEVFの表示デバイスと、しっかりとした接眼光学系が収められている。けっして、ガランドウなんかではない。
あー、でも、E-M5はアクセサリーポート(AP2)をEVFの上に配置する必要があったのと、極力「肩」のラインを下げるデザインコンセプトの影響で、余計にEVFの突出が目立つ感じになっていたんだよなあ。そのあたりは、なだらかな肩のラインで構成するパナソニックのGシリーズとの比較が面白い……おっと、余談。
EVFを内蔵したのはE-M5が初というわけではないし、一眼レフスタイルのEVF内蔵機はそれ以前から数多く存在する。なのに、まるでEVFを初めて見るかのような誤解がE-M5登場時に少なからずあったのは不思議である。まあ、それだけあの「三角」は目立っていたということなのだろうか。おそらく、EVFは1枚のガラス板と液晶パネルがある、くらいに思っていたが故の「誤解」だと想像するが、実際に接眼光学系無しに極至近で液晶パネルを見るとどうなるか、たとえばスマホを眼の前(EVFを覗くくらいの感じ)に近づけてみるとよくわかる。さらに、ちゃんと見えるようになるまで離していくと、どのくらいになるのか……接眼光学系の「仕事」が理解できると思う。
で、冒頭に戻るんだけど、中途半端ではないEVFをGMシリーズに載せて許容できる大きさってどのくらいなのかなあ、と思ったのである。